セロ弾きのゴーシュその59
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セロ弾きのゴーシュその59

作品:セロ弾きのゴーシュ
作者:宮沢賢治

 それから六日目の晩でした。金星音楽団の人たちは町の公会堂のホールの裏にある控室《ひかえしつ》へみんなぱっと頭をほてらしてめいめい楽器をもって、ぞろぞろホールの舞台《ぶたい》から引きあげて来ました。首尾よく第六交響曲を仕上げたのです。ホールでは拍手《はくしゅ》の音がまだ嵐《あらし》のように鳴って居《お》ります。楽長はポケットへ手をつっ込んで拍手なんかどうでもいいというようにのそのそみんなの間を歩きまわっていましたが、じつはどうして嬉《うれ》しさでいっぱいなのでした。みんなはたばこをくわえてマッチをすったり楽器をケースへ入れたりしました。
 ホールはまだぱちぱち手が鳴っています。それどころではなくいよいよそれが高くなって何だかこわいような手がつけられないような音になりました。大きな白いリボンを胸につけた司会者がはいって来ました。
「アンコールをやっていますが、何かみじかいものでもきかせてやってくださいませんか。」

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底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
1989(平成元)年6月15日発行
1994(平成6)年6月5日13刷
底本の親本:「新修 宮沢賢治全集」筑摩書房
入力:水口充、野口英司
1999年7月23日公開
2004年3月22日修正
青空文庫作成ファイル:
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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)眼《め》を

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)第六|交響楽《こうきょうがく》
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