銀河鉄道の夜その122
作品:銀河鉄道の夜
作者:宮沢賢治
「切符を拝見いたします。」三人の席の横に、赤い帽子《ぼうし》をかぶったせいの高い車掌《しゃしょう》が、いつかまっすぐに立っていて云いました。鳥捕りは、だまってかくしから、小さな紙きれを出しました。車掌はちょっと見て、すぐ眼をそらして、(あなた方のは?)というように、指をうごかしながら、手をジョバンニたちの方へ出しました。
「さあ、」ジョバンニは困って、もじもじしていましたら、カムパネルラは、わけもないという風で、小さな鼠《ねずみ》いろの切符を出しました。ジョバンニは、すっかりあわててしまって、もしか上着のポケットにでも、入っていたかとおもいながら、手を入れて見ましたら、何か大きな畳《たた》んだ紙きれにあたりました。こんなもの入っていたろうかと思って、急いで出してみましたら、それは四つに折ったはがきぐらいの大きさの緑いろの紙でした。車掌が手を出しているもんですから何でも構わない、やっちまえと思って渡しましたら、車掌はまっすぐに立ち直って叮寧《ていねい》にそれを開いて見ていました。そして読みながら上着のぼたんやなんかしきりに直したりしていましたし燈台看守も下からそれを熱心にのぞいていましたから、ジョバンニはたしかにあれは証明書か何かだったと考えて少し胸が熱くなるような気がしました。
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底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
1989(平成元)年6月15日発行
1994(平成6)年6月5日13刷
底本の親本:「新修宮沢賢治全集 第十二巻」筑摩書房
1980(昭和55)年1月
入力:中村隆生、野口英司
校正:野口英司
1997年10月28日公開
2004年3月2日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ(例)川だと云《い》われたり
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号(例)光る粒|即《すなわ》ち星しか
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定(例)僕《ぼく》ん[#「ん」は小書き]とこへ
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作者:宮沢賢治
「切符を拝見いたします。」三人の席の横に、赤い帽子《ぼうし》をかぶったせいの高い車掌《しゃしょう》が、いつかまっすぐに立っていて云いました。鳥捕りは、だまってかくしから、小さな紙きれを出しました。車掌はちょっと見て、すぐ眼をそらして、(あなた方のは?)というように、指をうごかしながら、手をジョバンニたちの方へ出しました。
「さあ、」ジョバンニは困って、もじもじしていましたら、カムパネルラは、わけもないという風で、小さな鼠《ねずみ》いろの切符を出しました。ジョバンニは、すっかりあわててしまって、もしか上着のポケットにでも、入っていたかとおもいながら、手を入れて見ましたら、何か大きな畳《たた》んだ紙きれにあたりました。こんなもの入っていたろうかと思って、急いで出してみましたら、それは四つに折ったはがきぐらいの大きさの緑いろの紙でした。車掌が手を出しているもんですから何でも構わない、やっちまえと思って渡しましたら、車掌はまっすぐに立ち直って叮寧《ていねい》にそれを開いて見ていました。そして読みながら上着のぼたんやなんかしきりに直したりしていましたし燈台看守も下からそれを熱心にのぞいていましたから、ジョバンニはたしかにあれは証明書か何かだったと考えて少し胸が熱くなるような気がしました。
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底本:「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫、新潮社
1989(平成元)年6月15日発行
1994(平成6)年6月5日13刷
底本の親本:「新修宮沢賢治全集 第十二巻」筑摩書房
1980(昭和55)年1月
入力:中村隆生、野口英司
校正:野口英司
1997年10月28日公開
2004年3月2日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ(例)川だと云《い》われたり
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号(例)光る粒|即《すなわ》ち星しか
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定(例)僕《ぼく》ん[#「ん」は小書き]とこへ
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